大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和22(れ)77 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人居村万蔵上告趣意は「原判決ノ理由ニ於ケル判示事実中被告人ハ第六昭和

二十一年八月一日午後八時頃大阪市省線a駅構内待合所テ年齢三十才位住所氏名不

詳ノ婦人所有ノ現金五百円女着物六枚在中ノボストンバツク一個ヲ窃取シ、第七A

ト共謀ノ上同年同月中旬頃省線b駅停車中ノ列車内テ氏名不詳ノ男所有ノ現金一万

円米一升在中ノ赤革手提鞄一個ヲ窃取シ、右二個ノ事実ニ対シ原判決ハ法ノ適用ニ

付キ窃盗罪トシテ刑法第二百三十五条及同第六十条ヲ適用シテ夫々有罪トシ科罰シ

テ居ルノテアル然レドモ右二事実ハ被告人ノ自供以外何等之ヲ立証スル証拠カナイ

ノテアル日本国憲法ノ施行ニ伴フ刑事訴訟法ノ応急的措置ニ関スル法律第十条後段

ニ依リ如斯行為ハ有罪トシ科罰スルコトヲ禁シラレテ居ルノテアルカラ之ノ点ニ於

テ明ラカニ違法アル判決ト謂ハナケレハナラナイ尤モ本件ニ於ケル被告人ノ数行為

ハ連続犯トシテ刑法第五十五条ニヨリ一罪トシテ処断セラレテ居ルノテアルカ本件

ニ於ケル上記二個ノ事実ハ其判決ニ対シ重大ナル影響ヲ与フルモノナルコトハ其他

ノ犯罪事実ト照合シテ疑ナキ処テアルカヽル犯罪事実ニ対シテ違法アル判決ハ到底

破毀ハ免レサルモノト確信スルモノテアル」というにある。

自白の問題は、日々の裁判の現実において最も重要な憲法問題の一つである。憲

法第三十八条第三項並に日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する

法律第十条第三項には、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である

場合には、有罪とされ、又は刑罪を科せられない」と定めている。これらの規定の

趣旨は、一般に自白が往々にして強制、拷問、脅迫又はその他有形無形の不当な干

渉乃至影響により恐怖と不安の下に、本人の真意と自由意思に反してなされる場合

のあることを考慮した結果、被告人に不利益な証拠が本人の自白である場合には、

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他に適当なこれを裏書する証拠を必要とするものとし、若し自白が被告人に不利益

な唯一の証拠である場合には、有罪の認定を受けないとしたものである。それは、

罪ある者が時に処罰を免れることがあつても、罪なき者が時に処罰を受けるよりは、

社会のためによいという根本思想に基ずくものである。かくて真に罪なき者が処罰

せられる危険を排除し、自白偏重と自白強要の弊を防止し、基本的人権の保護を期

せんとしたものである。

しかるにこれに反し、公判廷における被告人の自白は、身体の拘束を受けず、何

等の強制、拷問、脅迫又はその他有形無形の不当な干渉乃至影響を受けず、全く自

由の状態において供述されるものである。しかも、憲法第三十八条第一項によれば、

「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」ことになつている。それ故公判廷

において被告人は自己の真意に反してまで軽々しく自白し、真実にあらざる自己に

不利益な供述をするようなことはない、と見るのが相当であろう。又新憲法の下に

おいては、被告人はいつでも弁護士を附け得られる建前になつているから、若し被

告人が虚偽の自白をしたと認められる場合には、弁護士は直ちに再訊問の方法によ

つて、これを訂正せしめることもできるであろう。従つて、公判廷における被告人

の自白が、裁判官の自由心証によつて真実に合するものと認められる場合には、公

判廷外における被告人の自白とは異り、更に他の裏書証拠を要せずして犯罪事実の

認定ができると、解するのが相当である。すなわち前記法条にいわゆる「本人の自

白」には、公判廷における被告人の自白を含まないと解釈するを相当とする。

さらに価値論の観点から考へてみよう。(一)強制、拷問、若しくは脅迫による

自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、証拠能力を有しない(憲

法第三十八条第二項)。かかる種類の自白は、憲法上全く信用力なく全面的に証拠

価値を否定せられておるから、これを証拠として断罪科刑することはできない。そ

の他の自白は、公判廷におけるものも又公判廷外におけるものも、等しく証拠能力

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を有する。(二)しかし、公判廷における自白は、前述の理由によつて証拠価値が

比較的多いから、その自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合においてもこ

れを証拠として断罪科刑することができていい訳である。(三)これに反し、公判

廷外における自白は、前述の理由によつて証拠価値が比較的少いから、その自白の

外に、適当なこれを裏付けする裏書証拠が必要となる訳である。さればと言つて、

公判廷における被告人の自白があつたとしても、安易に直ちにこれを証拠として断

罪し去ることは、早計であり固より許さるべさことではない。裁判の任に当る者は

飽くまで自由心証主義の下に、自白の真実性につき自由心証を形成し得た場合にお

いてのみ断罪し科刑し得るものであることを深く戒心しなければならぬ。自白規定

を設けた憲法の精神もまたここにあると確信する。

上述のごとくであるから、

論旨は理由がない。

補足意見

右に対する裁判官斎藤悠輔の補足意見は次の通りである。

思うに我現行刑事訴訟法の上では被告人は、訴訟当事者であると共に証拠方法の

一つであるから、公判廷における被告人の公訴事実に関する供述(いわゆる事件に

対する冐頭陳述並びにその後の訊問に対する供述を含む、蓋し、いわゆる冐頭陳述

は被告人の事件に対する総論であり、要旨であり、結論であり、また、その後の供

述はこれが各論であり、詳細であり、理由であるのを普通とするが、往々にして両

者の間に矛盾乃至変更、訂正、取消等があるので被告人の事件に対する答弁、弁解

の趣旨は冐頭陳述に限定せず被告人の供述全体を見て決すべきであるこというまで

もないからである。)は、当事者としての防禦的訴訟行為と証人としての経験事実

の報告的訴訟行為とを包含するものである。而して、前者の法律上の性質は原告官

である検察官の意見、主張に対する答弁、弁解すなわち一種の意見、主張であり、

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後者の性質はその意見、、主張の裏附けを成す資料すなわち証拠たる性質を持つも

のと解すべきである。すなわち、一面事件たる公訴事実に対する意見、主張であり、

他面その資料、証拠であると見るべきである。従つて公判廷における被告人の自白

は被告人が公判廷において訴訟当事者として原告官の事件すなわち公訴事実に関す

る意見、主張を認めて争はない意思表示をしたと同時にこれが裏附けを成す資料す

なわち証拠をも提出したものと見ることができる。それ故、このような被告人の公

判廷における自白は日本国憲法第三十八条第三項並びに同法の施行に伴う刑事訴訟

法の応急的措置に関する法律第十条第三項にいわゆる「本人の自白」に該当しない

ものと解するのを正当とする。その理由は凡そ、証拠は訴訟当事者間の主張、答弁

に争のある場合にその必要を見るもので、換言すればその争のある場合に必要な主

張又は答弁の裏附けを成す資料に外ならない。従つて右条項は訴訟当事者たる検察

官と被告人との主張、答弁に争のある場合を前提とし、その争ある場合に必要な検

察官の主張の裏附けを成す資料換言すれば被告人に不利益な証拠に関する規定であ

つて、しかも、その証拠が唯一の場合であるときの規定であり、当事者間の主張、

答弁に争のない場合の規定ではないと解すべきである。然るに公判廷における被告

人の自白は、被告人が公判廷において身体の拘束を受けず、自己に不利益な供述を

強要されず、訴訟上全く独立した人格者たる当事者として、事件に対し、防禦、弁

解をする機会を充分に与えられていたに拘らず、前述のごとく、ことさら自己に不

利益な原告官の主張事実を認めてこれを争はない意思を表示し、剰つさえ、その証

拠をも提出したものであり、まさに、訴訟当事者間の主張、答弁に争のない場合で

あるから前記条項の前提とした場合に該当しないと見るべきである。それ故被告人

が公判廷において自己に不利益な公訴事実を自認する供述をした場合に、その供述

自体若しくは他の資料に照し、その供述が真意に出で且つ真実に合致するものと認

められるときはそれのみを以て有罪とされ又は刑罰を科せられても前記条項に違反

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するものといい得ない。また、しかく解するのが、国民を独立した人格者として尊

重し責任ある自由と権利とを保障した憲法の根本精神にも適合する。

被告人上告趣意は「昭和二十年四月大阪区裁判所ニ於テ恐喝罪デ一年以上三年ノ

刑ヲ言渡サレ奈良少年刑務所デ服役シテイマシタが昨年仮釈デ出所致シマシ今度強

盗傷人強盗窃盗罪ヲ働キ誠ニ以テ申訳有リマセン。強盗傷人事件ニ付テ申上ゲマス。

共犯者氏名、B事C、D事E、F事G(Bノ従兄)H(氏名ヲ忘レテイタノデ警察

デハ申上ゲテ居マセン)、事件ハ九月末頃ト思ヒマス、所ハ大分県中津市c区(被

害者ノ名ハ存ジマセン)へ強盗ノ目的デ午後七時半頃Hノ家ヲ私達五人ハ出マシタ、

途中道案内ハGトHノ二名デ有リマス(G、Hノ所ハ大分県中津市d区e添テ被害

者ノ所迄ハ道ノリ約半里強デ時間ニシテ約三十分)。Cハ、ピストル、私ハ刀(一

尺弱)ヲ持チ、D、H、Gノ三名ハ無手デ有リマス、ソシテ五人ハ被害者ノ家ノ前

迄来マシタ。ソコデCガ「GトDトHハ外デ見張リヲシテイロ」ト言ヒ、私ニ「オ

前ト俺ト這入ルダ」ト言ヒマシタ。サテ、被害者ノ表入口デCガ私ニ「オ前先ニ這

入レ」ト言ヒマシタノデ、私ハ玄関ノ入口ノ戸ヲ開キ乍ラ「今晩ハ」ト言ツテ中ニ

這人リマシタ、ソシテ玄関台ニ足ヲ掛ケ「灯リヲツケ電気ヲツケ口」ト言ヒマスト

今迄寝コロンデ居タ主人が起キ上リ「灯リハ無イ停電ダ」ト言ヒ、私ハ「ネロ」ト

言ヒ乍ラ座敷へ下足ノ儘上リマシタ、(ピストルヲ持ツタCが始終私ノ後ニ居タ様

デシタ)、(私ハ刀ヲウデソデノ中ニ入レテイマシタ)ト同時ニ主人ハ私ノエリ首

ヲツカンデ「泥棒泥棒」ト叫ビ乍ラ私ヲ倒ソウトシマシタ、エリ首ヲツカマエラレ

タ私ハ何ガ何ヤラ無我夢中デハナレマシタ(真暗ナ中デ主人ト私ノ争ヒ時間ハ一、

二分間ノ様デシタ)。其ノ後日私ハ中津警察署ニタイホサレ始メテ被害者ノ主人ニ

全治一週間ノ傷ヲオハシテイル事ヲ知リマシタ、幸ヒ傷が浅カツタ事ヲ不幸中ノ幸

ト私ハ心カラ喜ンデ居マス。(思ヒマスニ私達ノ這入ツタ時ハ停電デ暗イ故、Cト

私ノ持ツテ居ル兇器ヲ主人ハ知ラズニ無ヤミニ組付イテ来タモノト思ヒマス、私モ

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又何ウシタカオボエハアリマセン、思ヒマスニ若シ停電デ無カツタナラバ主人ハC

ト私ノ持ツテ居ル兇器ヲ見テ此ノ様ニアバレズニ、モウ少シ考ヘテモイタト思ヒマ

ス、ソシテ私モ傷ヲ付ケズニスンダ事ト思ヒマス)私ハ中津警察署ニタイホサレル

迄強盗傷人強盗窃盗合セテ数件ヲ働イテ居マス。終戦後色々ナ犯罪ヲ新聞デ読ミ、

友達ニハ西洋映画ニピストルヲ持ツテ出テ来ル男スナハチ闇商人ヨリ金品ヲウバツ

テ来ル英雄的行為ダ何ンダ彼ンダト言ツテ誘フ友達ニツリコマレテ家ヲ飛出シCノ

家ニ世話ニ成リ強盗傷人強盗窃盗ノ数件ヲ働イタ次第デ有リマス。私ハ今迄ノ犯シ

タル罪ニ対シテ幾度モ死ヲ決心致シマシタガ面会ニ来ル母ノ涙ノ顔ヲ見ルト其レモ

成ラズ私ハ色々ト迷ヒマシタが今ハ迷ツテハ居マセン、私ニハ母が有リ親孝行ヲセ

ナケレバ成リマセン、又幼イ弟や妹達モオリマス。又罪ノ償ヒモシナケレバ成リマ

セン、服役シテ一日モ早ク社会ニ出テ真面目ニ働キ今迄ノ犯シタル罪ノ清算ヲモス

ル決心デ迷ヒカラサメタ私デアリマス。何ウカ御寛大ナル処置ヲオ願ヒ致シマス」

というにある。

被告人は前非を悔い真面目な生活に入ろうと決意し、迷の道から目ざめてきたの

は、まことに結構である。しかし、国の法律は重い。原判決には、どこにも違法の

点がないから、上告の理由はない。

よつて、刑事訴訟法第四百四十六条に従い主文の通り判決する。

この判決は、裁判官斎藤悠輔の補足意見の部分を除いては、裁判官全員の一致し

た意見である。

検察官幸節静彦関与

昭和二十三年二月十二日

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 真 野 毅

裁判官 沢 田 竹 治 郎

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裁判官 斎 藤 悠 輔

裁判官 岩 松 三 郎

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